野球肘のリハビリテーション

1.投球動作

投球動作は約2秒間で一連の動作が終了する非常に速い動作です。投球動作の分析を進める際には通常、動作をいくつかに相(期)分けをして話を進めます(図1)

図1
図1


①ワインドアップ期:投球動作の始動からステップ脚を最大挙上するまで
②早期コッキング期:最大挙上したステップ脚を投球方向に踏み出し、接地するまで
③後期コッキング期:ステップ脚が接地してから、投球側の肩関節が最大外旋位(Maximum External Rotation; MER)を呈するまで
④加速期:投球側の肩関節が最大外旋した位置から投球方向に加速し、ボールをリリースするまで
⑤フォロースルー期:ボールをリリースして以降、減速動作を行い、投球動作が終了するまで

2.投球動作時に肘にかかるストレス

投球動作の際に肘にかかる力学的ストレスは、一般的に後期コッキング期?加速期にかかる外反ストレスとフォロースルー期にかかる後方ストレスとされています。

特に最大外旋(Maximum External Rotation; MER)時にかかる外反ストレスによって、肘の内側には牽引のストレスが、肘の外側には圧迫のストレスが加わります(図2)
一方、フォロースルー期では肘の過伸展時に後方での回旋・衝突が生じます。

図2
図2


3.投球動作は全身運動(運動連鎖の重要性)

投球動作は、下肢からの力を各関節の運動連鎖によって体幹から肩甲骨を経て上肢に伝導し、最終的に指先への力としてボールに加えるという全身運動です。
各関節のいずれかの運動機能が不十分な場合、最終的なパフォーマンスを代償するために、より末端の関節に負担が大きくなる可能性があります(図3)

図3
図3


4.投球障害肘(野球肘)のリハビリテーションの考え方

肘に過度の外反ストレスや過伸展ストレスを生じるような投球フォーム(いわゆる「肘下がり」や「手投げ」)、投げ過ぎによる「疲労」などが原因とされますが、このような現象を生じている原因が他に存在する場合が多く、動作分析や身体機能評価を併せた総合的な評価による原因の追求と原因に対する対策が必要となります。

例えば,肘以外の身体各部位に何らかの機能異常が生じた結果、全身運動による投球動作が妨げられ、いわゆる「投げ過ぎ,使い過ぎ」の状態が肘に生じ易くなるために障害が発生してきます。
これには肘関節のみへの治療だけではなく、原因となっている他の身体部位への機能向上を促すアプローチが必要となります。

5.野球肘に対する治療・アプローチ

当院では、以上の考え方により投球動作の土台となる下肢・体幹の安定性ならびに肩甲帯・肩関節機能の矯正・安定性に着目して、投球復帰・再発予防を目指したリハビリテーション治療を進めていきます。

肘に炎症症状がある急性期?亜急性期では肘関節そのものの機能を回復させるため、物理療法やストレッチング、筋力トレーニングなどを行ない、正常可動域の獲得と筋力獲得を目指します。
同時に、下肢・体幹・肩甲帯を含めた全身の機能評価をもとに、身体機能の改善を行ないます。

回復期では肘関節にストレスをかけない投球動作の獲得を目指し、より実際の動作に近い機能的な肢位での応用動作のトレーニングを行ない、それぞれの身体機能を高めることと、動作のつながりを意識したトレーニングを同時進行で行ないます。
リハビリ室内でのネットスローでフォームを観察、分析し、患部の状態を確かめながら、医師と連携を取ってグランドでのスローイングを許可していきます。

文責:元木



<参考文献>
1.菅谷啓之、能勢康史 編「野球の医学 ?競技現場のニーズに応じた知識と技術?」臨床スポーツ医学Vol.32臨時増刊 文光堂,2015
2.岩瀬毅信部、柏口新二、松浦哲也 編「肘実践講座 よくわかる野球肘 離断性骨軟骨炎」全日本病院出版会,2013
3.菅谷啓之 編 「肩と肘のスポーツ障害」中外医学社,2012