中高年のスポーツ障害

中高年では、加齢による退行変性が体の全ての組織に認められます。特に運動器、すなわち骨、関節、筋肉、腱などの退行変性の程度が、スポーツ活動に密接に関係します。スポーツを継続しているうちに、体の特定の部位にストレスが集中して、故障を起こしたものをスポーツ障害と呼んでいます。
中高年に発生する特徴的なスポーツ障害として、ゴルフ、テニス、ジョギング、水泳、ウォーキング、などによる腰、膝、肘、肩の痛みがあります。代表的な中高年に発生するスポーツ障害としてテニス肘、ランニング障害を解説します。

1)テニス肘

テニス肘は、手関節伸筋の上腕骨外上か付着部の炎症であり、テニスのラケットを持ったり、物を持ったりするときの肘の痛みとして出現します。我々の一般外来におけるテニス肘の患者の年齢、性別を見ると、30歳以降の女性に圧倒的に多く発生しています。また30歳以上のテニスクラブの会員調査では、ソフトテニスでは46.5%、硬式テニスでは33.3%にテニス肘を認められています。
一方、大学テニス部員では、テニス肘の罹患は8%に止まっています。したがって、テニス肘は、手関節伸筋の腱の加齢が基盤にあり、そこに機械的なストレスが加わり、腱の骨への付着部で微少断裂が生じ、炎症を引き起こしたものと考えられます。テニス肘の予防には、プレーの前後に手関節伸筋並びに屈筋のストレッチングを充分に行うことが大切です。反対側の手で手関節を伸ばしたまま、20秒間そのままの位置を保ちます。反対に、手関節を曲げたままの位置を同じように20秒間保ちます。さらに手を強く握ったり、軽い鉄アレーを持ち上げる訓練により、手関節の筋力を鍛えるのも有効です。

2)ランニング障害

ランニング障害の理解をするために、まずランニングのバイオメカニクスを知る必要があります。ランニングのサイクルは、脚が地面についている立脚期と、脚が中に浮いている遊脚期があります。ランニングの特徴は、歩行と違い、両脚が地面から浮いている時期があることです。また極めて短時間に起こる立脚期において、脚の垂直方向には、体重の約3倍の力がかかっています。したがって、55kgのランナーがフルマラソンを約2時間8分で完走した場合、その歩数は約24,820歩となります。その際、着地の衝撃は片脚に1706tもの力がかかっている計算になります。
さらに、立脚期では膝から下腿、足にかけ非常に複雑な動きが要求されます。そのために、ランニング障害は立脚期に発生するのがほとんどです。私たちが行った中高年男性を対象にしたランニング障害の調査では、腰痛が最も多く、ついで膝痛、アキレス腱炎、腸脛靭帯炎、足関節痛、足底筋膜炎、中足部痛、膝蓋靭帯炎の順で発生しています。また、膝の痛みはX脚や扁平足の人に多く認められています。さらに月間走行距離が200kmを越えると、腰痛、膝痛が増加しているのが特徴です。また膝関節にX線像の退行変性の所見が認められた場合、膝痛の発生頻度が増加しています。したがって、中高年のランニング障害の特徴は、特定の筋、腱の障害よりも、腰痛、膝痛が多いことと、障害の発症には走行距離・下肢アライメントが関与していることが挙げられます。
ランニング障害の予防には、ランニングの前後のストレッチングが有効です。特に大腿四頭筋、ハムストリングス、腸脛靭腿、アキレス腱のストレッチングが大切です。

3)中高年者のランニングは骨・関節の退行変性にいかなる影響を及ぼしているか?

加齢により骨のカルシウム分が減少し弱くなります。一方関節も、軟骨が摩耗して関節が傷んできます。このような加齢変化が認められる状態でランニングを継続した場合、骨や関節にどのような影響を及ぼしているか大変興味深い問題です。この問題に関して私たちが行った研究結果を紹介します。中高年ジョガーは男性が73人、女性が20人です。対象群として、ジョガー群と年齢をマッチングさせた、普段定期的な運動を行っていない人を選び、非運動者としました。男性が119人、女性が40人です。
腰と膝関節の退行変性の出現頻度は、男性、女性とも年齢の増加とともにジョガー、非運動者のいずれの群でも増加しています。男性と女性を比較すると、腰椎、膝関節ともに女性のほうが退行変性の出現が早期に認められています。しかしジョガー、非運動者の間では退行変性の出現頻度には差が認められません。
したがって中高年であってもランニングによる負荷が腰椎や膝関節の退行変性を促進する心配がないことがわかりました。一方骨に対して、運動は加齢による骨のカルシウム分の低下を抑制する働きがあることが知られています。私たちの研究では、男性については、ランニングが骨塩量の維持に効果的に働いていることが示されています。しかし、女性ではランニングが骨塩量の維持に効果があるかどうかについて明らかにされませんでした。すなわち女性では骨塩量の維持に関して、運動の要素以外の関与が強いことが推測されます。